協会報 第117号
巻頭言
愛知県労災指定医協会常任理事
自動車保険医療対策委員会委員長
浅井 貴裕
愛知県労災指定医協会の自賠責担当となって、はや3年目になりました。自賠責保険担当になったことで、愛知県損害保険医療協議会専門委員会に参加するようになりました。会員の先生方の多くは、聞き慣れない委員会だと思いますので、少し説明させていただきます。専門委員会は、愛知県医師会、愛知県整形外科医会、損害保険会社、損害保険料算出機構の方々と3ヶ月に1回程度の割合で検討の場を設けています。医療機関側の意見を我々が、損害保険会社の方々は会社側の意見をお互いに説明し、事例検討をしています。
委員会に参加するようになって、最初に感じたことは、同じような問題で検討している事例が多いこと、それは我々だけでなく損害保険会社側も同じであるということでした。
そのような折、林会長から諸問題における留意点を簡潔にまとめるよう指示を頂きました。
そこでまず、「自分が事故にあった場合に、損害保険会社がどのような対応をするのか?」を調べてみました。
すると、様々なリーフレットや冊子が存在することがわかりました。見た中で最もわかりやすかったのは、日本損害保険協会から出されている「交通事故 被害者のために」でした。この冊子をきっかけに「交通事故の診療に関しての留意点について」を作成するに至りました【労災指定医協会会報第115号(令和元年8月)に同封】。
交通事故の診療に際して、最初に問題になるのが保険の取り扱いでした。
公的な医療保険(健康保険)は、「職域保険(被用者保険)」と「地域保険」の2つがあります。職域保険は、(1)全国健康保険協会(協会けんぽ)、(2)組合管掌健康保険(組合健保)、(3)共済組合、(4)船員保険があります。地域保険は、国民健康保険(国保)、国民健康保険組合(国保組合)、後期高齢者医療制度があります。
これら公的医療保険が適応されない診療が自由診療となります。交通事故や労働災害などのほか、先進医療やワクチン予防接種などがここに含まれます。
交通事故の診療にあたっては、必ずしも自由診療で診療をおこなわなければならないわけではなく、患者さん自身に公的保険での診療か自由診療での診療かを選択してもらわなければならないこととなります。
実際、交通事故での診療は自由診療となることが多いと思いますが、自由診療であれば医療機関は何をしても良いわけではなく、公的保険での診療に準じて診療を行う必要があります。自賠責保険のみならず、労災保険での診療も同様です。
特に交通事故での診療に際し留意していただきたいことは、自賠責保険などでの診療の場合は休業補償や後遺症診断などを受けることができますが、公的保険を使用した場合では受けられる治療こそ差はありませんが、国民健康保険には原則として、休業補償などの制度がないという点です。ただし、被用者保険の場合は怪我などが理由で仕事を休んだ場合に、療養担当者の意見書があれば、その間の所得保障として「傷病手当金」が支給されます。
また、公的保険を使用するためには、患者さん自身に「第三者行為による傷病届」などを保険者に提出(連絡)してもらう必要性が生じます。
そして、患者さんは健康保険法第74条に従い、受診日毎に医療機関または保険薬局に一部負担金を支払わなければなりません。さらに、疾患名やリハビリの算定上限日数など公的保険での診療同様のルールに従う必要も生じます。
このような、公的保険を使用することでの不便さを患者さんに理解してもらったうえで、交通事故での診療に際し公的保険での診療か自由診療での診療かを選択してもらう必要があります。
(令和2年9月記)