協会報第119・120号合併号
巻頭言
世界保健機関が2020年3月11日に新型コロナウィルス感染症のパンデミック宣言を行ってから丸二年が過ぎ、蔓延の波も第6波を数え、ギリシャ文字にも見慣れてきました。奇しくもその日付は11年前の東日本大震災の発災と同じでした。
災害時には平時の地域医療の問題点が顕在化し、増幅され先鋭化して我々を襲ってくることは、医療者がこれまでの大規模自然災害での経験から学んだ教訓です。災害医療は局地的かつ期間限定的ですが、新型コロナ災禍は全地球規模かつ超長期の持久戦であり、通常医療と災害医療を同時進行させなければなりません。このため病床・医療スタッフといった医療資源投入の采配は、地域の病院群単位でも個別病院単位でも大変悩ましいものでした。改正感染症法を盾に準備病床数の確保を督促されても、病床が人を治すわけではなく医療スタッフの確保が鍵を握るため、最終的には医療機関の自律的行動に委ねられます。すべてが国営県営ならば話は容易ですが、我が国の医療提供体制がもっぱら「民」の力で構築されてきた歴史背景があるため、「官」の強制力は浸透し難く、むしろそれを無用としてきたのは医療機関の献身的な自主性でした。いざという時に国や県の意図を迅速に実行できる医療機関の存在意義が浮き彫りになったと言えます。2025年を目途とした地域医療構想は、データによる制御と地域の医療者の自主的協議によって、あるべき姿に向け、病院機能分化と連携推進を行うこととされていますが、ここに至って都道府県の権限再強化論が持ち上がっており、病院医療関係者はある種の危機感を感じています。
最近の労働安全衛生をめぐる状況では、労災保険新規受給者数が1967~70年頃の170万人をピークに1972年の労働安全衛生法の施行以降、企業の安全対策推進や産業保健活動による作業環境改善によって年々右肩下がりに減少し、2009年度の534,623人で底を打ったものの、再び増加傾向に転じて2018・2019年度は2000年代初頭の水準に戻ってしまい、2020年度は65万人余を数えました。業務上疾病の内訳では、伝統的な双璧である、じん肺や振動障害が2005年まで減少傾向でその後は横ばいである一方、上肢障害・メンタルヘルス・脳血管疾患・循環器疾患の増加が目立っており、労災医療が扱う疾病構造に大きな変化が認められております。
当協会は1957年3月27日の結成以来、<労働衛生に関する研究・指導を通じた職業性疾病予防・労働災害防止への寄与>、<労働者災害補償保険事業の円滑な運営への貢献ならびに会員の福祉増進>を目的として定款に掲げ、会員の皆様の努力と関係各位からのご支援をいただいて今日に至っております。平成29年度からは県下全医療機関を対象とした労働保険事務組合事業の開始ならびに愛知県医療勤務環境改善支援センター事業を受託し、協会活動の幅を広げてまいりましたが、後者の事業は令和2年度から公益社団法人愛知県医師会へ継承され、当協会は実務職員の出向による関与のみになりました。
ウィズコロナ・ポストコロナ時代の潮流の中にあって、労働者災害補償保険医療における当協会の果たす役割をあらためて自覚するとともに、会員増強活動や会務運営の刷新に取り組み、本会の存在感をさらに高めてゆく努力をこれからも継続してゆくことが重要であると考えます。引き続き皆様のご理解とご支援を心からお願い申し上げます。
会長 浦田士郎