協会報(第127号)
一般社団法人 愛知県労災指定医協会
副会長 伊 藤 之 一
令和6年度診療報酬改定において、医療DXの推進が制度的に明確化されたことは、我が国の医療提供体制における構造的変革の一端を示すものである。電子カルテの標準化、オンライン資格確認の義務化、さらにはAI技術の診療支援への導入等、医療のデジタル化は単なる業務効率化に留まらず、診療の質的向上を志向するものである。
労災医療の現場においても、これらの制度改定は看過し得ない影響を及ぼす。診療報酬の算定における電子的記録の整備は、審査の透明性と迅速性を高める一方、労災特有の診療報告様式や請求手続との整合性を確保する必要がある。特に、診療録の記載要件やレセプト電算処理との連携に関しては、現場における実務的対応力が問われる局面となっている。
医療DXの活用は、患者情報の一元管理を可能とし、重複検査の回避や診断の迅速化を通じて、労災患者の早期社会復帰支援にも資するものである。また、遠隔診療の活用やAIによる画像診断支援は、地域医療の平準化および医師の業務負担軽減に寄与する可能性を有している。
当協会においては、診療報酬改定の内容を正確に把握し、医療DXの導入が労災医療の質的向上に資するよう、会員各位への情報提供および研修機会の充実を図ってまいりたい。制度と現場の乖離を最小化し、医療提供体制の持続可能性を確保するためには、医師一人ひとりの理解と実践が不可欠である。
医療制度は不断の変革を遂げている。斯かる時代において、我々医療従事者は制度の本質を見極め、患者中心の医療を堅持する姿勢を忘れてはならない。今後とも、労災医療の充実と制度的整合性の確保に向け、協会一丸となって取り組む所存である。

