協会報第122号

 巻頭言

団塊ジュニア世代が全て65歳以上となり、我が国の高齢者数がピークに達するとともに減少に転じてゆく2040年頃の医療提供体制を展望し、2025年までに着手すべきこととして<地域医療構想>・<医師偏在対策>・<働き方改革>が三位一体で推進されてきました。このうち働き方改革は2019年の労働基準法改正で、罰則付きの時間外労働上限規制が導入されるという同法70年の歴史上特筆すべき内容でした。医師への規制適用は、もっぱら応召義務への配慮を理由として2024年まで5年間猶予されましたが、膨大な国民の医療ニーズが医師・医療従事者の長時間労働で支えられてきた我が国の医療実態を直視するとき、地域医療の継続性への配慮もまた重要であることは明らかです。そして愈々適用開始まで残すところ一年となりました。

三位一体的と謳われているものの、まずは地域医療構想をツールとした医療機関の最適配置が進み、実効性のある医師確保対策によって医師の偏在(地域・診療科・業態)が是正された上で、医師の働き方改革での労働時間上限制限適用を迎えることが理想的経過であるとすれば、現状はその逆で、明年4月に迫った労働時間上限規制適用開始の影響で大学等からの医師派遣が滞りはじめ、地域の病院も医師の負担軽減のため診療業務内容の改変を進めざるを得ず、地域住民にとっても医療機関自身にとっても混乱を来すなかで、医療機関の統廃合や機能転換が進められ、医師の偏在も是正されないままという最悪の経過を辿っているように見えます。

2024年4月以降、診療従事勤務医の年間時間外労働時間の上限規定は、960時間(A水準)を基本とし、地域医療の確保や医師の修練のため止むを得ない場合として1860時間までを認める暫定特例水準(B・連携B・C水準)からなります。県内の各医療機関は、愛知県医療勤務環境改善支援センターの支援を受けながら、またそれぞれ独自にも医師の労働時間短縮の取り組みを進めておられます。取り組みの分析と評価は日本医師会が受託した医療機関勤務環境評価センターによって実施され、その評価結果をもとに各都道府県が医療審議会で審査し、特例水準の施設指定を行うことになっています。評価実務を担う医療サーベイヤー・労務サーベイヤーの人選と教育は既に完了しており、各医療機関からの申請を待つだけの状態です。愛知県の審査スケジュールでは2023年11月及び2024年3月に医療審議会が開催され、その審議の約1ヶ月後に指定が公示される予定です。特例水準の適用を受けようとする医療機関が医療機関勤務環境評価センターへ受審の受け付けをおこなってから評価結果の通知を受けるまで4ヶ月程度必要とされており、医療審議会の開催日程から逆算した早めの受審申請が必要です。

 最悪に近いシナリオに沿って進みつつある三位一体改革の流れの中、すでに愛知県労災指定医協会の直接的関与から離れ、愛知県医師会へ受託されている愛知県医療勤務環境改善支援センターが、県内医療機関の自主的取り組みをサポートし、医師・医療従事者の健康と地域医療の継続性の両立にますます貢献していただくよう期待するばかりです。

  会長 浦田士郎

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